大正メビウスライン

メーカーヒューネックス/dramatic create
ハードPS Vita / Vita TV / PSP
ジャンル大正剣劇浪漫アドベンチャー
備考主人公込みでフルボイス
公式サイトhttp://dramaticcreate.com/mebius/

文化と娯楽と学問と

さて突然ですが、中島敦先生の「山月記」が大変好きです。
作中描かれる虚栄心由来の優越と劣等に苛まれた結果の没落を記録に残す意義、才覚を得る事とそれを世間へ表明することの違い。
それらテーマの魅力に加え、筆者が高校の時分、まずこの物語へ教科書から初めて触れたとき、担当のY教諭のおっしゃった言葉が忘れられないのです。
冒頭の「 隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった」。
この一文のみで物語の時代から主人公の名前、出身、特徴、来歴、現状、主義が全く表現される簡潔さが素晴らしいと教諭は熱く語っておられたのです。
彼の幼少期を克明に描写いたしましたら、確かにこれだけで2章ほど成立しそうな気がいたします。故に、この解釈は大変深く印象に残りました。
テーマの表現手法の精錬なる様が今も本作を愛し止まない大要素と感じられるのです。

続いて、表現手法の方角から話題をもうひとつ。
以下は夏目漱石先生の吾輩は猫であるより、主人公の猫氏が居候している先生宅へのある客人来訪の折、そのお顔を表した部分の引用です。ぜひ脳内プロセッサで様子をレンダリングしながらお読みください。

抜け上った生え際から前髪が堤防工事のように高く聳えて、少なくとも顔の長さの二分の一だけ天に向ってせり出している。
眼が切り通しの坂くらいな勾配で、直線に釣るし上げられて左右に対立する。
直線とは鯨より細いという形容である。
鼻だけは無暗に大きい。
人の鼻を盗んで来て顔の真中へ据え付けたように見える。
三坪ほどの小庭へ招魂社の石灯籠を移した時のごとく、独りで幅を利かしているが、何となく落ちつかない。
その鼻はいわゆる鍵鼻で、ひと度は精一杯高くなって見たが、これではあんまりだと中途から謙遜して、先の方へ行くと、初めの勢に似ず垂れかかって、下にある唇を覗き込んでいる。
かく著るしい鼻だから、この女が物を言うときは口が物を言うと云わんより、鼻が口をきいているとしか思われない。

さて。甚だしく酷い物言いですが、この描写を初めて読んだ時、私的に全くギャグ漫画の筆と感じ入った次第、具体的にはラッキーマン、学級王、セクシーコマンドー外伝、ジャングルの王者、絶体絶命デンジャラスな魅力を感じたのであります。
即ち、ここから、これらの帝國時代の日本文学に属する作品に、折々エンターテイメントとしての楽しさが満ちる場合が少なからずあるよう思えてならないのです。
なぜこれらの物語「の一部」が「教材」になっているのか。純粋におもろいものなのだということがもっと広まってほしいと心から思います。坊っちゃんはGTO系列であり、三四郎はラノベでありドグラマグラはループ物であり、何れも存分に喜怒哀楽をドライブ叶うのが何よりの面白みと思われるのであります。
本日紹介をいたします「大正メビウスライン」も、これら現在に通じる面白さを多分に含んだエンターテイメントが楽しまれていた大正当時を舞台に描かれた、ある意味とても身近でありながら現代とも異なる空気を描く、ノベルタイプのテキストアドベンチャーゲームです。

ゲーム概要

選択肢を選びルート分岐する仕様、未来の行動に影響する分岐、周囲の好感度に影響する分岐の両方を選び乗りこなしながら様々な物語の流れと結末を楽しむ構造です。
主人公込み、全ての登場人物に音声が収録されています。

大正メビウスラインの世界

タイトルにもあるように、本作の舞台は大正時代、より厳密にはその末期です。
主人公「柊京一郎」は帝大への入学を控え上京間もない書生です。
幼少時に大病をした影響で死霊が見える体質となった彼独自の得失と、華の都で起こる種々の出来事を通じて修身道徳を砕かれたり貫いたり、その木訥さ故に翻弄されたりと波瀾万丈な出来事が起こります。

さて、文明開化から怒濤の発展を遂げた当時の大日本帝國ですが、本作で大きく描かれる4ルートの分岐では左右両論の「主義」が描かれるところが魅力となっております。
そこで主人公の純朴さが発揮されたことでそれぞれのルートで描かれるのはいろいろあれど、「恥」の尊さがあり面白いところです。
イデオロギーを抜きにし寄って立つものがため立派な行いをこそ心がける志。その格好それ自体を学べるのは、珠玉のBGMや声優の皆様の迫真の演技、大迫力の剣劇シーンと合わせて本作の魅力となっております。
ここで面白いのは、作中、主人公の寄って立つところが所謂忠君愛国である場合、そうでない場合の両方が描かれているところであります。4ルート全てでスタッフロールを見ますと更にあるルートで追加シナリオ込みのグランドエンドへ到達できるのですが、そこでの主張が双方主義の併存するところとなるというのがまた魅力的であり、その手前で各々をとても濃く深く描いてあったからこその心地よい読後感をいただくことができました。

そして出色なのが各シナリオに用意されたバッドエンドの作り込みです。
選択肢をしくじった場合にその帰結として訪れる悲惨な、あるいは残念な結末の数々。
しかし本作のバッドエンドでは間違え即時終了というのはむしろ珍しく、そんな状況でも主人公たちは知恵を絞り、不屈の魂を発揮し死力を尽くします。
結果悲劇としてまとまった終わりになるケース、当人たちのみ考えればあながちバッドでないむしろハッピーエンドと思えるケースと色々現れるのであります。
PSP、PSVita、VitaTVと幅広く楽しめる本作。それらも含めお楽しみいただけましたらと思います。
当時の文化風物を楽しみ接する、近代日本を舞台としたファンタジー。
フルボイスなこともあり、初期設定のみ終わらせればほぼほぼ画面を目視することなく完全クリアが可能です。
この紹介文書が皆様の本作をお楽しみいただく切っ掛けとなりましたらば、それが何より幸いです。

ファンディスク『大正メビウスライン帝都備忘録 ハレ』について

PS Vitaで、各結末の後日談を描いたファンディスクがリリースされました。名を「大正メビウスライン帝都備忘録 ハレ」と申します。
ディスクと言っても提供媒体はフラッシュカードもしくはダウンロードデータですから、ディスクドライブを備えないVitaでも安心です。きっと「リムーバブルディスク」な意味でのディスクという意味のディスクなのでありましょう。
少々、驚くべきUIがありましたのでご案内申し上げます。
シナリオ選択画面は方向キー左右で目的のものを選ぶのですが、カーソルを当てたら京一郎君のフルボイスでそのお相手のことが語られるのであると、まるでスクリーンリーダーかのような挙動が全く自然にさらりと実装されているなる、驚嘆される事実がございます。
おそらくファンサービスとしての実装なのでしょう。
それが、こうして視力を代用するインターフェイスとして動作されること。
本編共々、これもぜひ体験されるケースの増加されたいと願われる情報です。
本編の終わられましたらば、ぜひにこちらもお試し下さい。

参考

メニュー画面やコンフィグ画面のカーソル位置は保存されます。UIも含めてあやかしびとに近似したデザイン&構造でした。
より詳しい情報は視覚障害者向けアクセシブルゲームまとめウィキさんの詳細記事をご参考ください。
  それでは、本日はこのあたりにて。良きゲームライフを。

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