Little Aid

ジャンル女性向け恋愛アドベンチャー
メーカー(株)拓洋興業/TAKUYO
ハードPS2/PSP (ダウンロード版はPS Vita VitaTV互換)
備考:主人公含めフルボイス、かつ一部モノローグにボイスあり
ダウンロード版入手先PlayStationRStore \2,469

ABOUT.

リトルエイドはTAKUYO工業様より発売された、PS2/PSP用ノベルタイプアドベンチャーゲームです。
文章を読み選択肢を選びの繰り返しにより物語を先へと進めるオーソドックスなシステム。安心してお買い求めいただけます。

物語はとある秘宝をそれとなく受け継ぐ主人公の送る学生生活。前半パートで過ごした日常がある夜を境に多少の変質をおこし、以後はパラレル的ギャグルート、もしくは恋人関係になったパートナーと最初に直面する問題へ挑み乗り越える個別ルートへと進みます。
この、最初にパートナーと何かを乗り越えるシュチュエーションが全ルートへ共通化されており、問題の大小あれど、これは本作のギミックとして面白い点を自然生じさせている要素です。

主人公は賢人でも聖人でもない

主人公の西村あかりちゃんは実に素朴天然な子であります。その様は楽しく日々を過ごし、年相応の悩みを悩み、心根優しく多少常識に疎く、実に可愛い。本編全体から漂うそこはかとないお笑い空気も、彼女の人柄あればこそ、そしてそこから自然友人ができればこそ成立しているよう感じられ、大変魅力的な女の子です。
なのですが、その様は全くの普通にて特段のヒロインとしての性質、世界を救う、巨悪へ立ち向かう、暗殺者として育てられる等のエピソードとは全く無縁、血筋の関係から多少の特殊な出自である点も彼女の人間要素の規定とはなりえず、故にこそ次のようなプレイングが攻略の鍵となります。

前章で筆者は、個別ルートへ入った折各パートナーと最初の難局を乗り越える様が描かれると書きました。
そこで事態の好転を確定するのはもちろんあかりちゃんのパートナーへの思いなのですが、前半日常パートで「八方美人な選択ばかりを選んでいると」この場面で確実にバッドエンドへ至るギミックが仕込まれています。
このことへ気づいた時、なんとスタイリッシュな構造のシナリオなのだろうかと心底感激いたしました。
ですから結論としては、各ルートを大団円で終わらせる手段として前半の日常パートでは、人としての完璧でない部分を実践せねばなりません。委員会活動をサボる、陰口、第一印象を直ぐ口に出す、その他失言の類。意中の相手以外と接する、あるいは関係する場面にそうしたDQNな、不真面目な、残念な行動を取ればこそ終局たるハッピーエンドのフラグとなる。これは大変人間的なシステムと、ただ感激を覚えるばかりだったのです。

八方美人、二股たるインモラルへの強烈なアンチテーゼ。恋愛を題材にシナリオを描くゲームは多々ありますが、システム、しかも内部パラメータの増減の方法でそれを表現し実現した本作。ぜひその構成と面白さが、より多く楽しまれることを願います。

「僕は常に幸福すぎてうち震える小鳥の如く・・・

本作のおすすめポイントはあと2つ。そのひとつは沢登先輩の存在であります。
リベルクルスにタイガージョーありならば、リトルエイドに沢登 譲あり!

序盤に攻略できる4人全員のハッピーエンドを見て以後、彼との恋愛ルートが解禁されます。しかし、その趣はこれまでと全く異なる様子なふたりのお付き合い。
具体的にどうと記すとネタバレなので避けますが、Mixiの彼についてのコミュで少し議論になっていた「とても好きなカップル」を、題材にここへ記します。このルートの良い意味での異種性は、才に溢れた彼の安住の地としての彼女の存在から推し量れる癒やしと和みの空気。不肖わたしもここの色々は自然目頭の温まりを覚えておりましたことここに告白いたします。

そんな魅力ある場面がどのように演出されているのか、どのようにしてそのルートへ至れるのか。ぜひ楽しんで下さい。

恥を知る

最後に最後の魅力をもう一つご紹介。
あかりちゃんの担任である土師先生。攻略…とは違うのですが、この先生と深く関わるルートが有り、主人公ととあるキャラの因縁とある大切な過去が明らかになる、本作の大動脈、マントルとも言うべき大根本を成すシナリオです。
このルートは最後の最後な局面で解放される、その位置にも意味深さを感じます。

先生より語られる物語はまさしく朗々とし同時に眼前へその状況を自然描写せしめます。それはまるで文学作品の朗読CDを聴いているかのようで否応なくプレイヤーをその「聞いている話の世界」へと誘います。同時にこれまで関わってきたあるキャラがある場面で語っていたあることとの対比をプレイヤーがそれを聴きながら回顧したならば、そこには不思議な諦観と得心と理解と、恋愛の不可思議面白さ謎さ…が沸々と思われるのです。
人を好きになるとはどういうことなのか、愛情とは何なのか。情欲とは何なのか。

その考察自体に自然思い至らずにおれない、楽しいとも重いとも深いとも違う、そうしてその総てへ同時に当てはまる。そんな最強の幕引きたるとても本作らしい素晴らしいラストシナリオでした。
ゲームも終盤も終盤に登場するこのシナリオ。ですがデザートを思い描いていたら300g超のステーキが登場し独特のソースがかかった他に類例のないお味だったら、未知を得た喜びと合わせて結果としての思い出になるのであろう。本作を遊び終えてその仕組みとしての構成を理解したとき、全く感動いたしました。そして本作は思い出になったのです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。これを読んで興味を持っていただけたら嬉しいです。
物語としての目新しさ、特に各キャラ個別ルートは全くの普通さ。安心して見ていられる一方、特段楽しいかというと意見が分かれそうな部分も見受けられなくもなくもない物語も含まれます。
冗長でないもののテンポも早いわけでなく遅いわけでなく、至って普通。そう、普通なのです。

ですがその普通さの中に所々光る描写の輝きが放つ魅力の凄い作品、それ自体が遍く本作そのものの魅力であると信じます。
風紀委員長である沢登先輩。そして彼に弄られている同風紀委員のヌイナイの2人。そして同じく風紀委員会に所属しているあかりちゃんと友人女子2人との色々。そして家で学校で交わされる弟ふみくんとの素晴らしくくだらなく、故に日だまり癒やしとなっているその描写、そして温厚極まるお父上の存在。恋愛以前に語られるこれらの彼女の生活圏の土台が魅力にあふれるからこそ、その上で繰り広げられる物語の魅力が増す構造。とても魅力的な構造と思われます。

普通さと言えば物語に関わる登場人物の幅が細かく広い点も見逃せません。主人公の親族、学校関係者、そうした様々の登場人物(同社の他作品からのゲスト出演も含む)により本作へと生じた世界の奥行きが為、それ故に前述の輝きたる面白い箇所もあちらこちらへ遍在していると言えます。
ゲームディスクの中に1つの世界がある。自然そう思えてくる楽しいシナリオでした。

色々書きましたが基本の気軽なノリは間口の広さでありプレイヤーも気軽に楽しめる。機会がありましたらぜひ一度手にとって遊んでみて下さい。

おまけ

本作の購入はPS2版、あるいはPSP、PS Vitaであればダウンロード版をおすすめいたします。
ダウンロード版の長所にロード時間の短さがあるのですが、本作ではそれが演出のテンポに直結するため、会話の面白さを押し上げる要素として機能しているところが面白くあります。
また、同ダウンロード版はVita TVでプレイ可能ですので、大画面の前で腰を据えて、あるいは文庫本感覚で持ち運んで、両方が可能であることが魅力です。ぜひ、ご参考ください。

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