穢翼のユースティア Angel's blessing -

ジャンル:アドベンチャー
対応機種:PS5/PS4/Switch/PSVita/VitaTV
ダウンロード版入手先:PlayStation Store My Nintendo Store 


はじめに

穢翼のユースティアとは物語を読み進めながら途中に現れる選択分岐により変化する物語を楽しむ、テキストタイプのアドベンチャーゲームです。

空中に浮かび上層、下層、牢獄と3層に分かれる都市を舞台に、主人公である青年カイム=アストレアの人生が描かれます。
文明レベルは18世紀欧州風、何故そこが浮いているのか等の作中提示されるあらゆる謎は全て判明のうえ大団円となりますのでどうか安心してお買い求めください。
本作、フルボイスとシステムSEありの仕様により例によって視力を一切用いずクリア可能な内容でありましたので、
視力を用いずプレイいただく際についてはこちらへまとめましたのでご覧ください
そして本項では、視覚障害者向けアクセシブルゲームまとめウィキ様で書くことの憚られる、内容そのものへの主観的感想、これを書いてまいろうと考えております。
ネタバレ廃絶しつつ、語られた哲学を衷心に思い起こし、本作に包含される魅力を少しなりと皆様へお伝えできましたらと思います。

フィオネさん

理想を持って仕事へ挑み周囲からの理解を得ることと、その理想のため生じる不自由と抵抗と疲労と重圧と不合理と軋轢、なにより理想と現実の間に否応なく生じるギャップ。さらにそれを超えてその理想の貫徹から拾い上げられる矜持。そんなお話でした。
働くとは。それによりお金をいただくとは。それに伴って生じる責任とは。その責任を果たす上で自身に可能な裁量があるのかないのか、あるならそれをどう発揮するのか。
双方拮抗した技術を持つカイムとフィオネ、法や社会秩序を規範として動きつつも基本を自由人とするカイムと公務員であるフィオネ。そして双方に志があります。
最終、個人と個人の対峙に収束する物語構造、その個人の個性として「公に準じる」ことを描かれていたことが何より素晴らしく感じられたのでありました。
仕事をするのは己のためか世の中のためか、そうした2極分類でなくその配分を、考える楽しみに満ちた物語でありました。

エリスの先生

誰が教えたか「自由は素晴らしく価値がある」との考え。おそらく多数にとって是となるこの価値観にそぐわない人間の存在は、即ち多様性であります。
ここで大切なのは、自由や独立が素晴らしいという価値観をこのシナリオは全く否定していない、ここなのであります。
ただそれに合わない人間がいる。その事実をあまりに迫真エリス部に表現いただいたからこそのこの読み応え。一般に肯定される価値観は大切、ならばそこで思考停止せず、さて自分とその周囲にとってそれは適切なのかと疑問を抱き考察することそのものの大切さが語られたのがこの物語でした。
終始一貫し「己で考える価値」が描かれる本作にあって、最も「公共性」からの薄利が明確なこの物語はだからこそ奥深く、題目として語られる「多様性を受け入れる」とはつまるところどういうことなのかを考える入り口となる、そのような読み応えのある物語なのでありました。
それを読んで、筆者の心も治療された心地です。

聖女様

登場されましたるは盲目キャラであります。即ち視覚障害です。
その故も描かれるので安心な本作なのですが、さてもその描写はどうしてとてもよい、敢えて書けば白眉。
ブラインドチェス、無問題の日常動作、手引きの描かれ方は実に自然、あり得る具合であったとここへ記させていただきます。
このシナリオはぜひ多くの視覚障害をお持ちの方のプレイされるところとなり、結果その感想が広くやりとりされるようなそんな未来の訪れなど期待しつつ、それでもやはり個人の経験からではありますが、その視覚障害の様々に関わる描写は自然なものでした。
ここで描かれるのはフィオネさんとはまた異なる、責任を全うする物語。
とりわけ、果たすべき責任と果たせる責任に大きな相違がある場合どうだろう、そんな議論であります。
その考えるヒントをカイムはその生き様によって生じるのでありますが、最終的に決定するのは誰でもないその本人。
未来を切り開くことと周囲の変化は無関係だからこそドラスティックな事態にあって最も自身を動かすのがそれまでの生き方そのものであるとのこの流れ。感慨深くございました。

ラヴィリア

名言謹厳に事欠かない本作だからこそ、光るのがこの物語でした。
すばらしいことを語る、有言実行する。それは文字通りに素晴らしいことながら、さて彼女の物語は不言実行の極み。
事を成すに、ただそれを粛々と行えば良い。誇大な過大な宣伝や表明は、特に己の手の及ぶことをしようとするなら必ずしも必要ではないとのこの物語には、言葉ばかりの「甘さ」をせけん万般に振りまいて憚らない(これも社会の維持に必要と描かれている)雇い主との対比としても機能していて、その美しさはそれこそ自然と膝折り手を合わせる心持ちになります。
美しい生き様について自然と思い至れる、小さく頑丈な、暖かく頑丈な物語でありました。

リシア様

安穏といたモラトリアムに疑問を抱くことは容易として、さてそこから脱却を志したとき、立ちはだかり立ち向かうべき世の中という圧倒的質量との戦いはどれほど大変なことであろうといった物語。
さて、一般論として戦いにあって最も重要なのは補給と兵站でありますが、精神的な意味で本シナリオでカイムが果たした役割は前線で奮闘するリシアに対する補給部隊、衛生兵のポジションでした。
彼の補給物資はどれも濃いめの味付けなのでリシアのむせかえることもしばしば。しかしてそれを積極的に求めた結果として、彼女生来の知性がみるみる開眼され、それだけではどうしようもなくどうしようもない相手との相対には、こちらに属する「世の中」の力を結集することで対抗する手段を獲得。
泥濘にまみれたサクセスストーリーの要素を含む、そしてそのまま飲み下せるリシアの如く純粋なる物語。
渉外とはどうして成果を生じるか。脳髄を振り絞り続ける楽しみに事欠かない、権謀術数の楽しい物語なのでありました。

ティアちゃん

ただ一言。感謝を。
この作品の存在への感謝の根源にこのシナリオが堂々とある具合が素晴らしくありました。
Afterストーリーの描写に聖女様の体験を考え合わせるなら、カイムさんの人生は2倍3倍の充実が実現されただろうと思えること。
本作の結末と本作の存在に、感謝を。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
少しなりと面白そうだと感じていただけましたら幸いでございます。
これらの哲学が、さてゲーム本編で具体的にどう描かれるのか。
そしてプレイされるおひとりおひとりの胸中に何を去来せしめるのか。
あるいは本作をプレイして6年ほど経ち、さてもう一度プレイしたときどのような印象となるのか。
そんな作品です。

主人公はフルボイス、そうしてサブキャラクターも含めた全ての登場人物がフルボイスである本作は、システムサウンドの仕様と考え合わせて視覚障害を不便とせずプレイの叶うタイトルの一つです。
ゲーム中メニュー画面がカーソル位置記憶式であること、環境設定もカーソル位置記憶なので場合により現在位置を確認し辛いこともあるのは確かながら、なおそれでいて本作を楽しんでいただけるのではないかと浅薄ながらも当方その可能性を考えるのであります。
ただフルボイスなのでない、そのボイス全てに解釈と魂の込められた演技も極上だった本作。様々な迫真、本気に身を浸す愉悦も存分に味わい尽くせるそんな作品、おひとついかがでしょう。
もしもプレイをされたならぜひ最後まで行かれて、そうして長い物語でもありますからじっくりゆっくりと楽しまれ、刹那的でない心からの楽しい時間を過ごせる一時となりましたらそれがなによりと思います。
  それでは、今日はこのあたりにて。

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